言語聴覚士が教える家庭でできる3つの初期支援
「うちの子、なかなかことばが出てこないけれど大丈夫かな?」「周りの子と比べてしまって、不安になる……」
今、この記事を読んでくださっているあなたは、お子さまの成長を心から願い、日々一生懸命に向き合っている親御さんだと思います。
ことばの成長は、お子さまの発達全体と深く関わっており、その進み方にはとても大きな個人差があります。
大切なのは、「ことばを無理に教え込むこと」ではありません。家庭でできる初期支援とは、ことばが育つための“土台”をつくっていく関わりです。
ここでは、私たち言語聴覚士(ST)が日々の臨床で大切にしている、ご家庭で今すぐ始められる、楽しく前向きな3つの関わり方をご紹介します。
ことばの成長で大切にしたい考え方
―「教える」よりも「土台づくり」
ことばは、ある日突然ポンと出てくるものではありません。
「聞く」「わかる」「やりとりが楽しい」という体験が積み重なった先に、自然と表出(アウトプット)として現れてきます。
まずは、ことばが育つ環境を整えることを意識してみましょう。
1.聞く力へのアプローチ
― 生活の中の「音」に一緒に注目してみよう
ことばを話す力は、まず「聞く力」が育ってこそ芽生えます。
● 今すぐできること
① 音環境を整える
テレビやスマートフォンの動画を、つけっぱなしにしていませんか?
BGMのように音が流れていると、
お子さまにとって「聞くべき音」と「そうでない音」の区別がつきにくくなります。
お子さまと一対一で向き合う時間は、
思い切って音の刺激をオフにしてみましょう。
② 音クイズ
生活の中で聞こえてきた音に、一緒に注目してみましょう。
例:ドアの音がしたら
- 大人:「誰かな?」と注意を向けて待つ
- 大人:「パパかな?」「〇〇(ペット)かな?」と選択肢を出す
同じ音に一緒に注目することで、音への感度が高まります。
外でのサイレン音や、動物の鳴き声などもおすすめです。
③ オノマトペ(擬音語・擬態語)を豊かに使う
ことばが出ない時期は、まず「音」がことばの代わりになります。
例:
- 車遊び:「ブーブー」「ゴロゴロ」
- 手洗い:「ゴシゴシ」
- 水を飲む:「ゴクゴク」
五感に訴えかける楽しい音をたくさん使うことで、
音への興味が、ことばの土台を築いていきます。
できるだけジェスチャーも一緒に使うと、理解が深まりやすくなります。
2.関わる力へのアプローチ
― 親子の「楽しい」がことばを引き出します
ことばは、親子のコミュニケーションの中で育ちます。
「ママ・パパといると楽しい!」
「伝えたい!」
この気持ちこそが、ことばを引き出す最大のエネルギーです。
● 今すぐできること
① 実況中継で「今」をことばにする
お子さまが見ているもの、触っているものに注目し、
その様子をことばにしてあげましょう。
例:
- ブロックを持ったら「赤いブロック、持ったね」
- 電車を見ていたら「電車、きたね」
「見ているよ」「受け止めているよ」というメッセージが、
安心感と学びにつながります。
② 質問攻めをやめて「共感・応答」に徹する
「これは何?」「どれ?」といった質問が多くなっていませんか?
ことばが出ていない時期のお子さまにとって、
質問は負担になってしまうこともあります。
指さしや声が出たときは、まず受け止めることを意識しましょう。
例:
- 子どもが犬を指さす →「ワンワンだね、大きいね」
- ブロックを渡す →「ブロック、どうぞだね。ありがとう」
③ 「待つ」「選ぶ」を習慣にする
先回りして、すべてをやってしまっていませんか?
察してもらえる環境が続くと、
ことばを使わなくても生活できてしまいます。
少し待つ、選ばせることで、
表現するチャンスをつくってあげましょう。
④ 子どもの動作や発声を真似する
ことばは「真似」から始まります。
まずは動作模倣(バイバイ、手遊びなど)、
その後に音声模倣へとつながっていきます。
実は一番効果的なのは、
大人がお子さまの真似をすることです。
真似される楽しさが、
やりとりへの興味を育ててくれます。
3.ことばを促す環境づくり
― 「わかる」ことを増やそう
ことばを話すためには、
まず理解できていることが大切です。
● 今すぐできること
① 幼児語とジェスチャーを活用する
音声は消えてしまいますが、
ジェスチャーは「見てわかる」情報です。
「クック(靴)」「アムアム(食事)」「ねんね(寝る)」など、
幼児語とジェスチャーを一緒に使ってみましょう。
② ゆっくり、短く話す
早口で長い文章は、理解しづらくなります。
「赤、きれい」「ママ、くるま」など、
短く区切って伝えることを意識しましょう。
焦らなくて大丈夫
親子の「楽しい」が未来をつくります
ことばが出てくるまでの時期は、
お子さまがたくさんの体験を通して、
理解を蓄積している大切なインプットの時間です。
インプットが十分に積み重なったとき、
アウトプット(表出)が自然と生まれてきます。
焦らず、お子さまのペースに合わせて、
できることから一つずつ取り入れてみてください。
※本記事は、一般的な発達支援の考え方を紹介するものであり、
医療行為や診断を目的としたものではありません。
すべてのお子さまに同じ結果を保証するものではなく、
発達の進み方には個人差があります。
■ 執筆者
言語聴覚士 永井 晴香(ことサポ登録ST)
■ 著作権について
本記事の著作権は、執筆者である言語聴覚士 永井晴香 に帰属します。
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