「言葉は話せるのに、なぜ支援が必要?」― 高機能自閉スペクトラム症(ASD)の子どもにオンラインSTが役立つ理由 ―

目次

はじめに

「うちの子、言葉はよく出ています」
知的な遅れが目立たない自閉スペクトラム症(ASD、いわゆる高機能ASD)のお子さんの保護者から、よく聞かれる言葉です。

確かに、
・単語や文章で話せる
・質問にも答えられる
・語彙も多い
といった様子がみられると、「もう言語の支援はいらないのではないか」と感じるのは自然なことです。

しかし重要なのは、「話せること」と「人とうまくやりとりできること」は必ずしも同じではないという点です。
ASDの支援においては、発音や語彙といった形式面だけでなく、状況に応じた言葉の使い方、すなわち語用や社会的コミュニケーションの力が重要な課題となります(飯塚,2010)。

高機能ASD児の「見えにくい困りごと」

高機能ASDのお子さんは、例えば次のような点でつまずきやすいことがあります。

・相手の気持ちを読み取るのが難しい
・冗談やあいまいな表現が分かりにくい
・「困った」「分からない」を適切に伝えられない
・注意された理由が腑に落ちず、強く落ち込む
・学校では我慢し、家庭で感情が爆発する

これらは発音や語彙の問題というよりも、状況に合わせて言葉を使う力(語用)や対人調整の難しさと関係しています。
国内の臨床的知見においても、言語能力が高く評価される場合であっても、状況理解、相談行動、対人場面での調整に課題が残りやすいことが指摘されています(飯塚,2010;飯塚,2013)。

オンラインSTは本当に効果があるのか

「対面でなければ意味がないのではないか」という疑問はもっともです。
一方で近年、ASD領域においてもテレヘルス(オンライン)による評価や介入に関する研究が増加し、系統的レビューとして整理されるようになってきました。

海外のエビデンス

Sutherland ら(2018)は、ASDに関するテレヘルス研究を系統的に検索・レビューし、社会的コミュニケーションや機能的コミュニケーションにおいて改善が報告された研究が存在することを示しています。一方で、特に子ども本人への直接介入については研究数や研究デザインに限界があり、さらなる検証が必要であると慎重に結論づけています。

de Nocker と Toolan(2021)は、ASDに対するテレヘルス介入について、比較研究などのグループデザイン研究を対象とした系統的レビューを行い、テレヘルス介入が有効であり得ることを示しました。ただし、研究の質やデザインにはばらつきがある点も同時に指摘されています。

Hao ら(2023)は、テレヘルスによる社会的コミュニケーション介入の効果を検討した系統的レビューおよびメタ分析を行い、語用を含む複数の言語領域において改善が報告されていることを整理しています。ただし、単一事例研究が多いという研究特性から、強い断定ではなく「改善が報告されている」という表現が適切とされています。

Boisvert ら(2010)は、ASDに対するテレプラクティス研究をまとめた系統的レビューを行い、評価および介入の双方において有望な結果が報告されているものの、当時は研究数が限られており、今後の研究の蓄積が必要であると述べています。

また、米国言語聴覚士協会(ASHA)は、ASDに特化した推奨という形ではなく、テレプラクティスを実施する際の要件(適法性、質の担保、免許、記録等)を整理しており、適切に設計・実施されるのであれば提供可能なサービス形態であるという立場を示しています。

なぜオンラインが合う子が多いのか

研究と臨床の両面から、次のような理由が考えられます。

1.安心できる場所で話せる

ASDのある子どもは、緊張や不安が強いと本来の力を発揮しにくいことがあります。
オンライン支援では、自宅など慣れた環境でセッションを受けることができるため、困りごとや本音を言葉にしやすくなる場合があります。

2.「今あった出来事」をすぐに扱える

語用や社会的コミュニケーションの支援は、抽象的な練習よりも、学校や家庭で実際に起きた出来事を題材にした方が身につきやすいとされています。
オンラインSTでは、その日の出来事をもとに「どう言えばよかったか」「次はどう対応するか」をその場で整理しやすくなります(飯塚,2013)。

3.保護者も一緒に理解できる

オンライン支援では、保護者がセッションの内容や支援の視点を把握しやすく、家庭での声かけや環境調整につなげやすい利点があります。
ASD支援においては、本人への直接支援と周囲の関わり方の調整を組み合わせることが、効果を高めると考えられています。

必ずしも「話せるから大丈夫」ではない

高機能ASDのお子さんは、「分かっているように見える」「説明できているように見える」一方で、本人の中には理解しきれない不安や混乱が残っていることがあります(飯塚,2010;飯塚,2013)。

こうした不安が積み重なると、学校への行きづらさ、自己肯定感の低下、二次的な不安や抑うつにつながる可能性も指摘されています。
そのため、早い段階から、無理のない形で「困ったときに言える」「相談できる」「関係を修復できる」といったコミュニケーションの土台を育てていくことが重要になります。

まとめ

・高機能ASDの子どもは、言葉が出ていても支援が必要となる場合がある
・困りごとは、話し方そのものではなく、言葉の使い方(語用)にあることが多い
・オンライン(テレヘルス)によるASD支援は、系統的レビューにおいて有望性が示されているが、研究の質やデザインにはばらつきがある
・家庭や学校とつながりながら日常場面を扱う支援として、オンラインSTは適した形態の一つである

ことサポ 支援チーム(言語聴覚士・医師連携)

ことサポについて
ことサポは医療機関ではなく、日常生活におけるコミュニケーションの工夫や支援を目的としたオンラインサービスです。
医療的な診断や治療が必要と考えられる場合は、医療機関へのご相談をおすすめします。

参考文献

飯塚直美(2010).高機能自閉症スペクトラムの子どものコミュニケーション―評価と支援の実際―.児童青年精神医学とその近接領域,51(3),313–318.

飯塚直美(2013).安心感と自己肯定感を高めるためのコミュニケーション支援―自閉症スペクトラムのある子どもについて―.コミュニケーション障害学,30,34–39.

Sutherland, R., Trembath, D., & Roberts, J. (2018). Telehealth and autism: A systematic search and review of the literature. International Journal of Speech-Language Pathology, 20(3), 324–336.

de Nocker, Y. L., & Toolan, C. K. (2021). Using telehealth to provide interventions for children with autism spectrum disorder: A systematic review. Review Journal of Autism and Developmental Disorders, 8, 1–31.

Hao, Y., et al. (2023). Effectiveness of telehealth social communication intervention for children with autism spectrum disorder: A systematic review and meta-analysis. Review Journal of Autism and Developmental Disorders, 10, 1–17.

Boisvert, M., Lang, R., Andrianopoulos, M., & Boscardin, M. L. (2010). Telepractice in the assessment and treatment of individuals with autism spectrum disorders: A systematic review. Developmental Neurorehabilitation, 13(6), 423–432.

American Speech-Language-Hearing Association. Telepractice. ASHA Practice Portal.

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次