―「登校できなくなってから」ではなく、困り始めた段階で支援を―
文部科学省が2022年に公表した調査では、公立小・中学校の通常の学級に在籍する児童生徒について、学級担任等の回答から、
- 「聞く」または「話す」ことに著しい困難を示すとされた児童生徒:2.5%
- 「読む」または「書く」ことに著しい困難を示すとされた児童生徒:3.5%
- 「対人関係やこだわり等」の問題を著しく示すとされた児童生徒:1.7%
と推定されています。
調査の母集団である、公立小・中学校の通常の学級に在籍する児童生徒874万1,319人に、文部科学省が示した推定割合を機械的に当てはめると、「聞く・話す」の困難は約21万9,000人、「読む・書く」の困難は約30万6,000人、「対人関係やこだわり等」の問題は約14万9,000人に相当します。なお、これらは文部科学省が実人数として公表した数字ではなく、推定割合と母集団規模から算出した概算です。
ただし、これらの項目に該当する児童生徒には重複があるため、人数を単純に合計することはできません。また、この調査は医師や言語聴覚士による診断・評価ではなく、学級担任等による回答を基にした推定です。特別支援学級は調査対象から除かれており、調査結果は発達障害のある児童生徒の人数を直接示すものでもありません。
したがって、これらの児童生徒全員に、言語聴覚士による個別支援が必要という意味ではありません。一方で、ことばの理解や表出、読み書き、会話、相手の意図の理解、困ったときの援助要請などにより、生活や学習に支障が生じている場合には、必要に応じて専門的な評価や支援を検討することが大切です。
小・中学校の不登校は約35万4,000人
文部科学省の2024年度(令和6年度)調査では、不登校の児童生徒は、
- 小学校:13万7,704人
- 中学校:21万6,266人
- 小・中学校合計:35万3,970人
となりました。高等学校でも6万7,782人が不登校として報告されています。
文部科学省は、不登校は取り巻く環境によってはどの児童生徒にも起こり得るものであり、不登校というだけで問題行動と受け取られないよう配慮する必要があるとしています。
また、不登校支援は「学校に登校する」という結果だけを目標にするのではなく、子どもが自らの進路を主体的に捉え、社会的に自立することを目指す必要があると示しています。
不登校の背景は一つではありません
不登校は、発達障害やことばの問題だけで起こるものではありません。
文部科学省が、不登校児童生徒について学校が把握した事実として報告している主な項目には、
- 「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」:30.1%
- 「生活リズムの不調に関する相談があった」:25.0%
- 「不安・抑うつの相談があった」:24.3%
- 「学業の不振や頻繁な宿題の未提出が見られた」:15.6%
- 「いじめの被害を除く友人関係をめぐる問題の情報や相談があった」:13.2%
などがあります。これらは複数回答による「学校が把握した事実」であり、そのまま不登校の原因を示すものではありません。
一方、ことばやコミュニケーションに困難がある子どもでは、次のような経過をたどることがあります。
説明を十分に理解できない、考えや気持ちをうまく伝えられない
↓
授業についていきにくい、誤解される、困っても助けを求められない
↓
失敗体験や対人関係の行き違いが重なり、疲労や不安が強くなる
↓
登校渋りや欠席が増える
これは、ことばやコミュニケーションの困難が、学校生活上の負担につながる経路の一例です。
すべての子どもに当てはまるものではなく、それぞれの要素の因果関係を証明したものでもありません。不登校には、本人の特性や心身の状態、学校・生活環境、対人関係など、複数の要因が関係します。
国内の単一施設を受診した不登校児80人を対象とする後方視的研究では、57%に広汎性発達障害や注意欠陥/多動性障害など、当時の診断基準による発達障害が認められました。発達障害が認められた子どもの87%は、不登校になって初めて診断されていました。
ただし、これは医療機関を受診した限られた集団を対象とする後方視的研究です。この割合を、不登校児全体にそのまま当てはめることはできません。
この研究から大切だと考えられるのは、不登校を契機として、それまで気づかれていなかった発達特性が明らかになる子どもがいるという点です。
言語聴覚士ができる支援
言語聴覚士は、不登校そのものを治療する専門職ではありません。
一方で、説明を理解する、気持ちを伝える、困ったときに助けを求める、会話をする、読み書きを行うといった、学校生活や社会参加の基盤となる機能を評価し、支援することができます。
言語聴覚士は、保健・医療・福祉・教育などの領域で、ことばやコミュニケーションに困難のある人に対して、検査、評価、訓練、指導、助言などを行う専門職です。
1.説明を理解する力
長い説明や曖昧な指示を理解しにくい場合には、説明を短く具体的にする、視覚的な手掛かりを用いる、課題を小さな段階に分けるなど、その子に合った伝え方を検討します。
2.気持ちや考えを伝える力
「分かりません」「手伝ってください」「少し休みたい」など、困ったときに助けを求める練習を行います。
話しことばだけでなく、文字、絵、身振りなど、その子が使いやすい方法で気持ちや希望を表現できるよう支援することもあります。
3.会話・対人コミュニケーション
相手の意図を理解する、会話の順番を意識する、出来事を整理して説明するなど、家庭や学校で必要となるコミュニケーションについて支援します。
4.読み書きへの支援
読む速度が遅い、文章の意味を捉えにくい、文字を正確に読んだり書いたりすることが難しい、考えを文章にまとめにくいといった困難を評価し、本人に合った教材や学習方法を検討します。
5.家庭・学校への助言
本人への直接的な支援だけでなく、
- どのような説明なら理解しやすいか
- どのような場面で困りやすいか
- どのようにすれば助けを求めやすくなるか
- 読み書きの負担をどのように調整できるか
などを、保護者や学校と共有します。
情報共有は、本人・保護者の同意を得たうえで、学校生活に必要な範囲に限って行うことが前提です。
言語聴覚士、教員、心理職、医師などの役割は、互いに競合するものではありません。子どもの困難が複数の領域にまたがる場合には、本人と保護者を中心として、それぞれの専門性を生かした連携が必要です。
目標は「無理に登校させること」ではありません
支援の目的は、子どもを一律に学校へ戻すことではありません。
自分の気持ちを伝えられること、困ったときに助けを求められること、自分に合った方法で学べること、家庭や学校などで安心して過ごせることが大切です。
ことばやコミュニケーションへの支援によって、不登校を必ず予防・改善できると断定することはできません。本稿で取り上げた文部科学省の調査や国内の医療機関の研究も、言語聴覚士による支援の不登校予防効果を直接検証したものではありません。
一方で、援助要請、言語理解、気持ちの表現、読み書きなどを支えることは、子どもが学習や社会参加を続けるための基盤の一つになります。
「まだ診断がついていないから」「今は学校に通えているから」と困りごとを先送りするのではなく、本人が負担を感じ始めた段階で、必要な相談、評価や支援につなげることが重要だと考えています。
オンライン言語発達支援「ことサポ」では、医師と小児領域の言語聴覚士が連携し、ことば、コミュニケーション、読み書き、援助要請などについて支援しています。
オンラインですべてを完結させるのではなく、必要に応じて、地域の医療機関、対面支援、学校等と連携することを基本としています。
執筆:里宇 文生
リハビリテーション科専門医・指導医/医学博士
オンライン言語発達支援「ことサポ」代表
※本稿は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。お子さまに、急な発達の後退、けいれん、聴力低下、摂食・嚥下の問題、強い不安、自傷・他害などが認められる場合には、対面で医療機関にご相談ください。
参考資料
- 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について」2022年
- 文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」
- 文部科学省「令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果及びこれを踏まえた対応の充実について」
- 鈴木菜生ほか「不登校と発達障害―不登校児の背景と転帰に関する検討―」脳と発達、2017年、49巻4号、255–259頁
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